たるこすの日記

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5. 間違いに気づく -東大卒が教える高校数学の考え方-

 数学の解答では間違えないことが大事です。 一旦間違ってしまったら、それに続く解答は全て間違いとなってしまいます。

 そうはいっても、誰しも間違えてしまうことがあります。 特に、試験で緊張したり時間に追われていたりすると、間違える可能性は高くなるでしょう。 ですが、もし間違えたことに気づくことが出来れば、もう一度考えなおしたり計算しなおしたりすることができます。

 この章では、間違いに気づくためのテクニックについて解説します。

 計画を立てて解法を試しているとき、解答を書いているとき、そして解答を書き終わった後の全ての段階で、この章で説明するテクニックを活用できます。 つまり、「計画をたてる」→「解答を書く」→「間違いに気づく」という流れではなく、「計画を立てる」→「解答を書く」という流れを行う過程で、常に「間違いに気づく」で解説するテクニックを活用してください。

5.1 反復法

 間違いを防ぐ1つ目の方法は反復法です。 この名前は説明の便宜上つけたものなので、覚える必要はありません。

 反復法とは、1度行った計算をもう一度繰り返して行い、結果が一致するかどうか確かめるという方法です。 ポイントは1回目の計算をあまり見ないようにすることです。 1回目の計算を見てしまうとその式に引きずられて同じように間違いやすくなるからです。

反復法のメリット

 メリットは、どういう場合にでも使えることです。同じ計算を行うだけなので、どんな計算でもこの方法を使えます。

反復法のデメリット

 デメリットは計算に時間がかかってしまうことと、2回とも同じように間違ってしまう可能性があることです。

 同じ計算ミスを2回ともしてしまう場合には間違いを見つけられません。 また、{ \Sigma } の展開や積分計算などで、そもそも計算方法を間違えて覚えてしまっている場合には何度やっても間違えてしまいます。

まとめ

 上記のようなデメリットはありますが、どんなときにも使える汎用的な方法なので、是非試してみてください。

5.2 逆戻り法

 次は逆戻り法です。

 これは、計算や式変形を行った後の式から、計算前・変形前の式に戻すことが出来るか(戻して一致するか)を確かめるという方法です。

逆戻り法のメリット

 メリットは、この方法が使える式であればほぼ確実に間違いを見つけられることです。 反復法では2回とも同じ間違いをしてしまうことはしばしばありえますが、逆戻り法では行う計算が異なっているために同じ間違いは起こりにくくなります。

 もうひとつのメリットは、計算後から計算前への変形が簡単な場合に、確かめが簡単なことです。

 例えば、因数分解は逆戻り法が有効です。

{ \displaystyle x^2-3x-28=0\\ (x-7)(x+4)=0 }

という因数分解を行ったとします。 逆戻り法では、以下のように展開することで計算が合っていることを確かめられます。

{ \displaystyle (x-7)(x+4)=0\\ x^2-3x-28=0 }

逆戻り法のデメリット

 デメリットは、積分計算や{ \Sigma} の計算などは元に戻すことが難しいことです。 このような場合には、別の方法を使ったほうがよいでしょう。

まとめ

 場合によっては簡単かつ効果的な方法です。 どのような場合に使いやすいかは、いろいろな問題を解きながら試して確かめてみてください。

5.3 代入法

 3つめは 代入法 です。

 代入法とは、計算や式変形を行う前と行った後の文字に同じ値を代入し、そのときに両方の式が一致するかを確かめる方法です。

 具体例をあげて説明します。

例1

{ \displaystyle x^2-3x-28=(x-7)(x+4) }

上のような因数分解を行ったとします。
左辺に {x=7} を代入すると、{ 7^2-3\times 7-28=0} となり、値は0になります。
また、右辺に {x=7} を代入すると、値は同じく0となり一致することがわかります。

例2

{ \displaystyle \sum_{k=1}^{n} k=\frac{n(n+1)}{2} }

左辺に {n=1} を代入すると、 { \displaystyle \sum_{k=1}^{1}k=1 } より、値は1となります。 また、右辺は { \frac{1\times2}{2}=1} となるため値は一致します。

代入法のメリット

 代入法のメリットは計算が比較的簡単なことです。ただし、代入する値によって計算の難しさは変わってくるので、できるだけ計算しやすい値を選んで代入しましょう。

 もうひとつのメリットは離れた数式でも比較できることです。 例えば、 {(式A)=(式B)=(式C)=(式D)=(式E)} と式変形があった場合、これまでの反復法・逆戻り法では前後の数式同士の計算が正しいかを確かめていました。ですが、代入法の場合は式{A}と式{E}にそれぞれ値を代入することで離れた数式でも間違っていないか確認することができます。

 また、"問題と答え"の組み合わせに対しても確認が可能です。

 例えば、問題文中で{a_1=1} と定められている数式の一般解を以下のように求めたとします。

{ \displaystyle a_n = n^2 -2n + 3 }

すると、一般解に { n=1 } を代入した時の値は { \displaystyle a_1 = 1^2 -2 \times 1 + 3 = 2 }

となるため、この一般解は間違っていることが分かります。

代入法のデメリット

 代入法のデメリットは、間違いが見つかるかどうかわからないところです。

 代入したときに一致しなければ間違っていると言えるのですが、一致したからと言って間違えていないとは言い切れません。代入した値の場合には、たまたま一致したけれども、他の値の場合には異なるということがありえるからです。

 ですが、複数の値を代入して確かめることで、"本当は間違っているのに間違いを見つけられない"という場合を減らすことができます。 3種類の値を代入して一致すれば、正しい割合はかなり高くなります。

まとめ

 代入法は手軽に実行することが出来る、非常に強力な方法です。計算の最初と最後や、問題と答えという組み合わせに対して、代入法を試してみてください。

 特に、問題と答えの組み合わせに対しては、3種類以上の値を代入して確かめることをおすすめします。

5.4 極限法

 4つめは 極限法 です。

 極限法は前節で説明した代入法とよく似ています。 代入法では文字に値を代入して確かめましたが、極限法では極限をとって確かめます。

例1

{ \displaystyle x^2-3x-28=(x-7)(x+4) }

左辺において、 {x\to \infty} とすると(左辺) { \to \infty}
右辺において、 {x\to \infty} とすると(右辺) { \to \infty}
となるため、値は一致します。

例2


1つのさいころを投げ続けて、同じ目が2回連続して出たら終了するものとする。
n回目以内に終了する確率を求めよ。

求めた答え

{ \displaystyle 1-\left( \frac{5}{6} \right)^{n-1} }

確認
{n\to \infty} とすると(求めた答え){ \to 1} となります。
問題文で考えると、さいころをずっと投げ続ければ({n\to \infty})、どこかで同じ目がでて終了するはずなので、確率は1となります。 そのため、値は一致します。

(前回の代入法をつかって{n=0, n=1}を代入して確かめると更によいでしょう。)

極限法のメリット

 極限法のメリットは代入法と同じで、計算が比較的簡単なこと離れた数式でも比較できることです。

極限法のデメリット

 デメリットも代入法と同じで、間違いが見つかるかどうかわからないところです。

 代入法と比べると、極限法は計算がより楽ですが、その分、間違えていても一致する場合が多くなります。 例1で考えると右辺の 7, 4 が別の数字になっていても、極限の値は一致してしまいます。

まとめ

 極限法は比較的簡単な計算で確認が出来るので、使いやすい方法です。 ですが、極限が一致していても、必ずしも計算が合っているというわけではありません。 そのため、極限法はあくまでも確認程度のものだということを忘れないでください。

5.5 次数法

 5つめは 次数法 です。

 これは答えの次数が合っているかを確認する方法です。

 「1辺がnの正六角形の面積を求めよ。」
という問題の場合、答えの次数は2 ( 答えが{ an^2+bn+c } という形)になるはずです。 なぜなら、{ n } が大きくなると、正六角形は横方向も縦方向にも { n } に応じて大きくなり、 面積は横方向と縦方向の掛け算で求まるため、面積は大体 { n \times n } となるからです。 (「大体」と言うのは次数が同じという意味です)

 そのため、答えが {3n^3}{2n} となっていれば間違いであるとわかります。

次数法のメリット

 次数法のメリットは確認が簡単にできることです。 次数を確かめるだけなので、計算する必要がありません。

次数法のデメリット

 デメリットは、次数がどうなっていれば正解なのか、というのが分かりにくいことです。 そもそも正しい次数が分からなければ確かめようがありません。 また、次数があっているからといって、答えが正しいとは言い切れません。

まとめ

 簡単な確認程度に使ってみてください。

 また、次数法とは少し違ってしまいますが、答えが正しい範囲に入っているかということを確かめることは重要です。 例をいくつか挙げてみます。

  • 面積 → 正の値になっているか
  • 確率 → 0以上1以下になっているか
  • 場合の数 → 整数になっているか

 このような確認を行うことで間違いに気づくことができるでしょう。

5.6 単位法

 6つめは 単位法 です。 ケアレスミスを防ぐテクニックはこれで最後です。

 単位法とは、単位があっているかを確かめる方法です。 単位法は数学の問題でも使えますが、化学や物理の問題でとても役に立つ方法です。

 単位には、m (メートル), s (秒), kg (キログラム)など、さまざまなものがあります。 その中で、値を足し合わせることができるのは、同じ単位をもつ値のみです。 {1[\mathrm{m}] + 1[\mathrm{kg}] } という計算は意味がありません。

 そのため、式中で足し算・引き算を行なっている場合、それらが同じ単位でなければ間違っているとわかります。 また、答えの値が正しい単位になっているかを確かめるということも有効です。

 しかし、単位を確かめようと思っても、複雑な式になっている場合はどうすれば良いでしょうか? 例として、以下のような式を考えます。(等加速度運動の公式です)

{ \displaystyle x = v_0t+\frac{1}{2}at^2 }

単位 : {x [\mathrm{m}],\ v_0 [\mathrm{m/s}],\ a [\mathrm{m/s^2}],\ t [\mathrm{s}]}

 この場合、{v_0t}{ \frac{1}{2}at^2} の単位を知らなくては確認できません。 実は、掛け算・割り算を行った値の単位は、単位を掛け算・割り算したものになるのです。 {v_0t} の場合は、 { \displaystyle [\mathrm{m/s}] \times [\mathrm{s}] = [\mathrm{m}] } より、単位は{ [ \mathrm{m} ] }となります。また、{ \frac{1}{2}at^2 } の場合は、 { \displaystyle [\mathrm{m/s^2}] \times [\mathrm{s}] \times [\mathrm{s}] = [\mathrm{m}] } より、単位は{ [ \mathrm{m} ] }となります。 また、{x} の単位も { [\mathrm{m}]} なので、単位はすべて{ [\mathrm{m}]}で揃っていることがわかります。

 上の例のように値がすべて文字になっていればわかりやすいのですが、数字が混ざっている場合には注意が必要です。 たとえば、先ほどの式に、 {a=2} が代入された場合、

{ \displaystyle x = v_0t+t^2 }

となり、 {t^2} の単位が { [\mathrm{s^2}]} のように見えてしまうからです。 そのため、数字が混じっている場合には、数を計算する前、もしくは代入する前に単位を確認することが重要です。

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