1. 数学とは -東大卒が教える高校数学の考え方-
1章では、用語に対する簡単な定義を行った上で、数学に対する基本的な考え方を解説します。 また、問題を解く際の全体の流れを説明します。 各ステップごとの具体的な内容は、2章以降で解説しています。
1.1 用語の定義
まず始めに、このブログで用いる用語の定義をしておきます。
数学
このブログでは、数学という言葉は基本的には高校数学のことを指しています。
解答
解答とは、解答用紙に書くすべての記述を指すものとします。
答え
答えとは、問題で求められているものに対し、解答者が導いた結論を指すものとします。
具体例を挙げてみます。
問題: を満たす を求めよ
に対する解答は以下のすべてを指すものとします。
また、答えは最後の結論のみを指すものとします。
1.2 数学は簡単?
数学という科目は他の科目に比べて簡単でしょうか? 難しいでしょうか? 考えは人それぞれですが、私は数学は比較的簡単だと思います。 その理由は、数学では正解と間違いの線引きがはっきりしているからです。 世界中の人が同じ問題に答えたとすると、解答は人それぞれですが、正しい答えは必ずただ一つに決まります。
一方、 国語や英語、社会などでは「間違っているとは言えないけれど正解(満点)ではない」という解答がたくさんあります。 そのため、完璧な正解を見つけることはとても難しいです。
それでは、数学において、正解を見つけるために重要なポイントはなんでしょうか? それは間違えないことです。 数学では間違いでない = 正解となるからです。
「そんなこと言われても間違ってしまうんだからしょうがない」「間違えないなんて難しい」と思われた方も多いかもしれません。 もちろん「これで説明終わり」というわけではなく、 このブログでは間違えないための考え方やテクニックを解説していきます。 このブログを読み進めていけば数学は簡単ということを納得してもらえるのではないかと思います。
1.3 間違えないためには
さきほど、数学の問題は間違えなければ正解できると書きました。 では間違えないためにはどうすればいいのでしょうか? 数十行にわたる解答を間違えずに書くことはとても難しく思えます。
しかし、上から順番に、一行ずつしっかりと確認していけばそれほど難しいことではないのです。 数学の解答というのは、小さな論理の積み重ねです。 例えば、とある解答が以下のような流れだとします。
- AならばB
- BならばC
- CならばD
この3つの文章が全て正しいとすると、これらを組み合わせた「AならばD」は必ず正しくなります。 つまり、全体が正しいことを確認するには、それらを構成する個々の文章が全て正しいことを確認すれば良い、ということです。
では、もし「BならばC」という内容に誤りがあったらどうなるでしょうか? この場合、その後「C」を用いて導いた全ての文章・式は誤りとなってしまいます。 テストの解答の場合には、誤った文章を書いてしまうと以降どれだけ頑張って解答を書いていても全く点数になりません。 (おまけで点数をくれることはあるかもしれませんが)
間違えないための、より詳しいテクニックについては4章, 5章に記載しています。 ここでは練習として、有名な証明「1+1=1」について考えてみましょう。(もちろん間違った証明です)
証明できてしまいました。どこが間違っていたかわかりましたか?
「全体的に間違っている」、「なんとなくおかしい」などと感じてしまってはいけません。 数学では、"少し間違っている"ということはありえないからです。 必ずどこかまでは正しくて、どこかから間違っています。
詳しく見ていきます。
- 1行目は定義なので問題ないです。
- 2行目は等式の両辺に同じものをかけても等式は成り立つので正しいです。
- 3行目、これも等式の両辺から同じものを引いているので成り立ちます。
- 4行目は因数分解です。これも正しいです。
- 5行目は等式の両辺を で割っているので正しい、と言ってしまいそうになりますがよく考えてください。 割り算には0で割ってはいけないという条件があります。 実は なので、ここで0で割ってしまっていた、というわけです。
つまり5行目で0で両辺を割っていることが誤りとなります。
今の例は比較的易しかったですが、どんなに難しい問題でも考え方は同じです。 解答を1行ずつしっかりと確認していき、誤りのない行を積み重ねていくことで、間違えない解答を作ることができるのです。
1.4 解答とは何を書くべきか?
いきなり質問ですが,みなさん解答には何を書いていますか? 何を書くべきだと思いますか?
「途中経過」や「計算」と思った方が多いのではないでしょうか?
しかしそれは間違っています。 答案用紙には自分の書いた答えが正しいことを示す証明を書くべきなのです.
証明といっても難しく考える必要はありません。 1行ずつ正しいことを書いていけばそれが証明になります。 前節で説明した「間違えない解答」と同じ考え方です。 証明の書き方について、詳しくは4章で説明します。
さて,どうして証明を書く必要があるのでしょうか? 数学は論理的な学問です。 問題に対する答えだけが重要なのではありません。 答えが正しいということが証明されて始めて,その答えには意味があるのです。
また、本解・別解といった言葉をよく聞くかと思います。 本解であっても、別解であっても、きちんとした証明が書かれた解答であれば、それらに点数の優劣はありません。 どんなに問題作成者の意図と違っていても、解が正しいことを証明できていれば、それは間違いなく正しい解答になるのです。
一方で、どれだけ途中経過を書いたとしても、論理に飛躍や誤りがあった場合その解答は意味のないものになってしまいます。 テストの場合、答えは合っているのに点数がもらえないということが起こってしまうのです。
1.5 問題を解く流れ
このブログでは、問題を解く流れを以下の5つに分類し、それぞれの章で解説しています。